Subsections
1次元空間にある粒子が正の方向に確率 で移動し,
負の方向に確率 で移動するものとする.
初めに時刻
毎に一歩(
)動く粒子を考える.
前回の結果から,粒子の位置のばらつきは時間とともに大きくなる
ことがわかった.
この粒子が時刻
に位置
に
いる確率 は,二項分布を用いて,
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(3.1) |
と表すことができる.
今回は,この式の性質について考えてみる.
のとき,上の確率分布は が非常に大きいときには公式
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(3.2) |
を用いて,
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(3.3) |
という平均 0 分散 正規分布で表されることが
知られている(これは中心極限定理のひとつの例である).
正規分布は拡散方程式の解であることが知られている.
そこで Wiener 過程と拡散方程式の関係について調べてみる.
この式は から まで積分すると 2 となる
ことが確かめられる.これは が奇数のときと偶数のときの
両方を同時に考えてしまっているためである.
規格化するためには,
の時間間隔で奇数と偶数の両方を
考えていると理解して,区間の分割数を2倍することになることを
考慮して,得られた確率密度関数を2で割るなどといった処理が
必要となってくる.
確率過程で表される非斉次項を持つ微分方程式を Langevin 方程式という.
今回のモデルについて Langevin 方程式を導いてみる.
時刻
における位置を とおくと,
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(3.4) |
である.
は
または
を
とる.この2つの値の取り方は独立である.両辺を
で
割ると
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(3.5) |
の極限をとると
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(3.6) |
となる. は白色ノイズと呼ばれる,相関のないでたらめな
量がぎっしりと集まった量である(相関がないのでパワースペクトルを求めると
すべての Power が同じ程度の大きさになる).
そして, はこのようなでたらめな力を足し合わせたものである.
この方程式の解を Wiener 過程という.
すなわち,ランダムウォークを
の極限をとって
理想化したものとして Wiener 過程は取り扱われる.
実は,この理想化には注意が必要であることが,次の話から
理解できる筈である.
Langevin 方程式が与えられたとき,Langevin 方程式の解の
確率密度関数が満たす方程式を Fokker-Plank 方程式という.
はじめに,連続極限を取る前の解が満たす関係式として,
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(3.7) |
がある.
と
を用いて
,
とおくと,
として,上述の関係式は
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(3.8) |
と表される.左辺を について,右辺を について Taylor 展開して
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(3.9) |
である. が
のオーダーのときに
が有限ににあるように
しながら
および
の極限をとる.
の極限をとったときのランダムウォークを Wiener 過程と
呼ぶ.このとき,
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(3.10) |
これは, Wiener 過程の確率密度関数が
拡散方程式の解であることを示すものである.
ここで
であり,
である.
をドリフト(漂速) を拡散係数という.
Wiener 過程の重要性は Langevin 方程式の形からも Fokker-Plank 方程式の
形からも理解できる.Langevin 方程式の形は, Wiener 過程が白色ノイズを
含んだ方程式の中でもっとも単純なものであることを示している.この方程式
の解は他の Langevin 方程式を解くときに重要な役割を持っている.
また, Fokker-Plank 方程式の形は,ランダムウォーカーの分布を考える
ことで拡散方程式の解が得られることを示してる.ある種の拡散の問題では
拡散方程式を解くよりもランダムウォーカーの振る舞いを計算し,その分布を
求めた方が容易であることがある.
課題2-2で作った複数のランダムウォーカーの軌跡から,
その分布を調べてみよう.具体的には課題2-2で作ったプログラムの
ランダムウォーカーの数を多くして,その頻度分布または確率密度分布を
表すプログラムを作ろう.
プログラムが完成したら,4歩,32歩,128歩,512歩のときの
頻度分布または確率密度分布をグラフに表そう.
Takashi Yoshino
平成16年1月22日