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ランダムウォークの性質

講義

ランダムウォークの性質

1次元空間にある粒子が正の方向に確率 $ p$ で移動し, 負の方向に確率 $ q=1-p$ で移動するものとする. 初めに時刻 $ \Delta \tau$ 毎に一歩( $ \Delta \xi$)動く粒子を考える. 前回の結果から,粒子の位置のばらつきは時間とともに大きくなる ことがわかった. この粒子が時刻 $ t = M \Delta \tau $ に位置 $ n \Delta \xi$ に いる確率 $ W(M, n)$ は,二項分布を用いて,

$\displaystyle W(M, n) = {}_MC_{\frac{M+n}{2}} p^\frac{M+n}{2} q^\frac{M-n}{2}$ (3.1)

と表すことができる. 今回は,この式の性質について考えてみる. $ p=q=1/2$のとき,上の確率分布は $ M$ が非常に大きいときには公式

$\displaystyle n! \simeq \sqrt{2\pi n} n^n e^{-n}$ (3.2)

を用いて,

$\displaystyle W(M, n) \simeq \frac{\sqrt{2}}{\sqrt{\pi M}} e^{-n^2/2M}$ (3.3)

という平均 0 分散 $ M$ 正規分布で表されることが 知られている(これは中心極限定理のひとつの例である). 正規分布は拡散方程式の解であることが知られている. そこで Wiener 過程と拡散方程式の関係について調べてみる. この式は $ n=-\infty$ から $ n=\infty$ まで積分すると 2 となる ことが確かめられる.これは $ M$ が奇数のときと偶数のときの 両方を同時に考えてしまっているためである. 規格化するためには, $ 2 \Delta t$の時間間隔で奇数と偶数の両方を 考えていると理解して,区間の分割数を2倍することになることを 考慮して,得られた確率密度関数を2で割るなどといった処理が 必要となってくる.

Langevin 方程式

確率過程で表される非斉次項を持つ微分方程式を Langevin 方程式という. 今回のモデルについて Langevin 方程式を導いてみる. 時刻 $ i \Delta \tau$ における位置を $ X_i$ とおくと,

$\displaystyle X_i -X_{i-1}=\Delta X_i$ (3.4)

である. $ \Delta X_i$ $ \Delta \xi$ または $ -\Delta \xi$ を とる.この2つの値の取り方は独立である.両辺を $ \Delta \tau$ で 割ると

$\displaystyle \frac{X_i -X_{i-1}}{\Delta \tau}=\frac{\Delta X_i}{\Delta \tau}$ (3.5)

$ \Delta \tau \to 0$ の極限をとると

$\displaystyle \frac{dX}{dt}=P(t)$ (3.6)

となる.$ P(t)$ は白色ノイズと呼ばれる,相関のないでたらめな 量がぎっしりと集まった量である(相関がないのでパワースペクトルを求めると すべての Power が同じ程度の大きさになる). そして, $ X(t)$ はこのようなでたらめな力を足し合わせたものである. この方程式の解を Wiener 過程という. すなわち,ランダムウォークを $ \Delta t \to 0$ の極限をとって 理想化したものとして Wiener 過程は取り扱われる. 実は,この理想化には注意が必要であることが,次の話から 理解できる筈である.

Fokker-Plank 方程式

Langevin 方程式が与えられたとき,Langevin 方程式の解の 確率密度関数が満たす方程式を Fokker-Plank 方程式という. はじめに,連続極限を取る前の解が満たす関係式として,

$\displaystyle W(M, n) = pW(M-1, n-1) + q W(M+1, n-1)$ (3.7)

がある. $ \Delta \tau$ $ \Delta \xi$ を用いて $ x=n\Delta \xi$ $ t = M \Delta \tau $ とおくと, $ w(x,t)=W(M,n)$ として,上述の関係式は

$\displaystyle w(x,t+\Delta \tau )=pw(x-\Delta \xi , t)+qw(x+\Delta \xi, t)$ (3.8)

と表される.左辺を $ t$ について,右辺を $ x$ について Taylor 展開して

$\displaystyle \frac{\partial w(x,t)}{\partial t} = 
 (q-p) \frac{\Delta \xi}{\D...
...x} +
 \frac{(\Delta \xi)^2}{2\Delta \tau}\frac{\partial^2 w(x,t)}{\partial x^2}$ (3.9)

である.$ (p-q)$ $ \Delta \xi$ のオーダーのときに $ (\Delta \xi)^2/\Delta \tau$ が有限ににあるように しながら $ \Delta \xi \to 0$ および $ \Delta \tau$ の極限をとる. $ \Delta \tau$ の極限をとったときのランダムウォークを Wiener 過程と 呼ぶ.このとき,

$\displaystyle \frac{\partial w(x,t)}{\partial t} = 
 -2c\frac{\partial w(x,t)}{\partial x} +
 D\frac{\partial^2 w(x,t)}{\partial x^2}$ (3.10)

これは, Wiener 過程の確率密度関数が 拡散方程式の解であることを示すものである. ここで $ c=(p-q)\Delta \xi / (2 \Delta \tau)$ であり, $ D=(\Delta \xi)^2/2(\Delta \tau)$ である. $ c$をドリフト(漂速) $ D$ を拡散係数という.

Wiener 過程の重要性

Wiener 過程の重要性は Langevin 方程式の形からも Fokker-Plank 方程式の 形からも理解できる.Langevin 方程式の形は, Wiener 過程が白色ノイズを 含んだ方程式の中でもっとも単純なものであることを示している.この方程式 の解は他の Langevin 方程式を解くときに重要な役割を持っている. また, Fokker-Plank 方程式の形は,ランダムウォーカーの分布を考える ことで拡散方程式の解が得られることを示してる.ある種の拡散の問題では 拡散方程式を解くよりもランダムウォーカーの振る舞いを計算し,その分布を 求めた方が容易であることがある.

課題

課題3 ランダムウォーカーの分布

課題2-2で作った複数のランダムウォーカーの軌跡から, その分布を調べてみよう.具体的には課題2-2で作ったプログラムの ランダムウォーカーの数を多くして,その頻度分布または確率密度分布を 表すプログラムを作ろう. プログラムが完成したら,4歩,32歩,128歩,512歩のときの 頻度分布または確率密度分布をグラフに表そう.

プログラムの例(課題3)


\begin{itembox}[r]{\textbf{3-1.c}}
\hspace{1cm}
\begin{minipage}{17cm}
\lst...
...guage=c,numbers=left,stepnumber=1]{program/3-1.c}
\end{minipage}
\end{itembox}

\begin{itembox}[r]{\textbf{3-1.f}}
\hspace{1cm}
\begin{minipage}{17cm}
\lst...
...guage=c,numbers=left,stepnumber=1]{program/3-1.f}
\end{minipage}
\end{itembox}

結果

課題3


\begin{itembox}[c]{4 steps}
\resizebox{!}{8.5cm}{\includegraphics{4.eps}}
\end{itembox}

\begin{itembox}[c]{32 steps}
\resizebox{!}{8.5cm}{\includegraphics{32.eps}}
\end{itembox}

\begin{itembox}[c]{128 steps}
\resizebox{!}{8.5cm}{\includegraphics{128.eps}}
\end{itembox}

\begin{itembox}[c]{512 steps}
\resizebox{!}{8.5cm}{\includegraphics{512.eps}}
\end{itembox}
Takashi Yoshino
平成16年1月22日