Subsections
前回の計算でわかったように Wiener 過程の確率密度分布は,
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(4.1) |
で与えられる.ここで と は,時間と距離に対応し,
これは,歩いた回数と位置を歩いた数で表したものである.
つまり,歩いた回数が与えられれば,確率密度の形は
歩数で表された位置に対して不変である.
しかし,実際に我々が考えるのは,実際の時間と距離である.
これは一歩にかかる時間と一歩の距離を
および
とおいて,時間 と 位置 を
,
と表して処理をすればよい.
時刻 においてランダムウォーカーが の
範囲にいる確率を
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(4.2) |
とおく.このとき,上の関係から,区間[,] の
間に存在する点の個数が が偶数と奇数の違いで半分になることから,
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(4.3) |
となる.これを用いると,
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(4.4) |
となる.これは,
と
の取り方によって
同じ時間でも分布関数の形が変わることを意味しており,実際に
用いる場合,細かく見るために
を変更すると,
同一な時間だけ経過しているにもかかわらず,違う分布が得られる
ことになり問題が残る.そこで,
期待している確率過程を表現するためには,どのように
と
を選べばよいのかを
考えてみる.
上の確率密度関数は
に
比例しているので,分散は
である.
そこで
となるような確率過程を
考えることにする.すなわち,
時刻 における分散が であるような Wiener 過程である.
このような過程のうち,
とした理想的な
確率過程を標準 Wiener 過程という.
標準 Wiener 過程の正しい定義は次のようなものである.
このとき有限な
と
は,標準 Wiener 過程の
良い近似となる.この近似をプログラムで実現しようと考えたときの
と
の選択肢は無限にある.例えば,
および
というのも
標準 Wiener 過程 の実現方法のひとつである.
すなわち,これまでの計算は標準 Wiener 過程(の近似の一種)を
計算していたことになる.
シミュレーションを行う場合には,必ず特徴的な時間が存在し,
その時間を十分に細かく分割することに
よって正しい結果が得られる.例えば,特徴的な時間を 1 時間とする.
この時間でシミュレーションを行うときに,1時間に一度の乱数を
発生させるのでは,十分とはいえない.言い換えれば, 1 時間分の
シミュレーションを行うのに
時間にするわけには
いかない.
そこで,
は 1 より小さい時間にするのが流儀となる.
このとき,標準 Wiener 過程を実現するためには
を
与えたあとで歩幅を
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(4.5) |
に変更することによって,標準 Wiener 過程を実現することになる.
結果的に,標準 Wiener 過程 は,次のアルゴリズムによって
任意の時間間隔
について計算することができる.
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(4.6) |
ここで は時刻 において発生させた擬似乱数であり,
1 または -1 が等確率で発生されるものである.
中心極限定理を応用することによって,別の方法でも標準 Wiener 過程を
作ることができる.例えば,区間 で一様分布する乱数 を
使う方法について考えてみる.この乱数の平均 と分散 は
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(4.7) |
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(4.8) |
であることに注意する.従って,
という乱数列は平均 0 分散 1 となる.
中心極限定理によって,この乱数の 個の和の平均 が従う確率密度関数は,
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(4.9) |
であることがわかる.今,
および
と変数変換して,新しい変数 の確率密度を求めると,
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(4.10) |
この分布が分散が であるためには
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(4.11) |
であればよい.すなわち,
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(4.12) |
である.この変数 は平均 0 分散 であり, 個の乱数 の和を
用いて表されている.つまり 個の乱数の和で表された確率過程
(標準 Wiener 過程)である.
具体的には,
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(4.13) |
であることから,これを についての式に直し, を に戻すと,
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(4.14) |
となる.これは,標準 Wiener 過程が
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(4.15) |
と表現できることを意味している.ここで は,時刻 に
おいて発生した区間 の一様乱数である.
課題2の Wiener 過程をプログラムを修正して,標準 Wiener 過程を
から まで計算するプログラムを作ろう.ただし,分割数
を与えると
によって
が
決まるものとする.また,アルゴリズムには
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(4.16) |
を用いること.
アルゴリズム
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(4.17) |
を用いて,一様乱数による標準 Wiener 過程を作成し,結果を
課題4-1と比較してみよう.
課題4-1や課題4-2で得られた標準 Wiener 過程の平均と分散の
時間変化を調べてみよう.
このときに,1)平均と分散が時間の分割の仕方に依存しないこと
2)サンプルの個数が少ないと理論値とずれることを
確かめよう.
課題4-1や課題4-2で得られた標準 Wiener 過程の確率密度分布を
課題3で作成したプログラムをもとにして求めてみよう.
Takashi Yoshino
平成16年1月22日