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これからはランダムウォークについて考察し,そこから Wiener 過程と
呼ばれる確率過程について,そのシミュレーションの方法を学んでゆく.
確率過程とは,確率を用いて記述された法則によって状態量が変化
してゆく過程である.
法則が確率を用いて記述されているために,実際に見られる過程が
事象によって異なるという性質を持っている.
Wiener 過程は様々な確率過程の中でも基本となるものであり,
これをもとにして様々な確率モデルが作られており,
物理学や生物学そして経済学などで利用されている.
そのために, Wiener 過程を実現するプログラムを作成する
ことは理論を理解する面でも応用の面でも重要である.
Wiener 過程を用いて作られた「確率微分方程式」と呼ばれる
分野は日本人の数学者(伊藤潔)によって作られた偉大な業績である.
ランダムに自分の行く先を決定する粒子の運動を記述することを考える.
これらを一般にランダムウォーク(random walk)と呼ぶ.
簡単のために空間は1次元とし粒子は正の方向に確率 で移動し,
負の方向に確率 で移動するものとする(1次元のランダムウォーク).
時刻 に原点にいて,時間
毎に
歩幅(
)だけ動く粒子を考える.
ランダムウォークはブラウン運動の模型と考えられている.
この粒子の動き方に関する理論的な考察が重要なのであるが,
その考察の前に,この演習では実際にどのような動きをするのかを
シミュレーションで確かめてみる.
この粒子が時刻
に位置 に
いる確率 は,二項分布を用いて,
|
(2.1) |
と表すことができる.これについては,次回に確認する予定である.
上の確率分布は が非常に大きいとき,Starling の公式を用いて,
|
(2.2) |
という正規分布の式で表される.ただし,これを
で
積分すると 2 となってしまう.この理由についてはまた考えることにする.
この結果は確率変数の和が正規分布になること,すなわち中心極限定理の
成立を示している.まとめると,
ランダムウォークする粒子の移動距離は歩数が十分に大きいときに正規分布する.
これは,水の中に落とした1滴のインクが広がっている過程と同じ
ことを意味している.
ランダムウォーカーの軌跡を作ってみよう.
確率 1/2 で右に(同確率で左に行く)ランダムウォーカーの
位置の変化を確認しよう.
複数のランダムウォーカーの軌跡を見てみよう.
様々な軌跡を得ることができるだろうか?
加法ノイズが正規分布している場合に何が生じるだろうか?
Takashi Yoshino
平成16年1月22日